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ロシアのプーチン大統領が9日、モスクワで開かれた第二次世界大戦の対独戦勝記念日の式典でウクライナ侵略の正当化を図る演説を行った。到底容認できない。
プーチン氏は、北大西洋条約機構(NATO)がロシアにとって安全保障上の脅威になっていたと強調し、ウクライナ侵攻について「軍事作戦は避けられず、唯一の正しい選択だった」と述べた。
だが、独立主権国家のウクライナへロシア軍が攻め込んだことこそが国連憲章違反の侵略に当たる。NATOの拡大を懸念したからと言って、侵略を正当化することはできない。
演説でプーチン氏はナチス・ドイツとの戦いと、ウクライナ侵攻を重ね合わせた。親露派民兵やロシア軍兵士に対し、「祖国の未来」のため、ナチスが復活しないために戦っていると鼓舞した。
だが、ロシア軍に国土を蹂(じゅう)躙(りん)され、無(む)辜(こ)の民が殺傷されているウクライナをナチス呼ばわりするのは常軌を逸している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、「第二次大戦から数十年過ぎ、闇がウクライナに再来した。(ナチスとロシア軍の)制服や標語は異なるが、血塗られたナチズムが(ロシアによって)ウクライナで再建された」と述べ、侵略者を非難した。ゼレンスキー氏の言葉のほうが説得力がある。
ロシア軍は占領地でウクライナ国民を虐殺した。原子力発電所を砲撃した。民間人しかいない避難所を爆撃し、居住地へのミサイル攻撃を繰り返している。全て国際人道法に反する戦争犯罪だ。
さらに懸念すべきは、プーチン氏が「キエフ(キーウ)では核兵器使用の可能性も口にされた」と語ったことだ。
核兵器を放棄したウクライナがひそかに核攻撃をねらっているとでも言うのか。作り話を口実にロシアがウクライナを核攻撃する恐れは排除できず警戒が必要だ。
軍事パレードでは天候不順を理由に軍用機の飛行が中止された。ただ、事前のリハーサルでは、プーチン氏が乗って核戦争を指揮する「終末の日の飛行機」と呼ばれるイリューシン80が飛行した。世界に向けた核恫(どう)喝(かつ)である。
いつまでウクライナを、世界を苦しめるつもりか。プーチン氏は全ロシア軍を撤兵させ、謝罪と賠償に応じるべきだ。
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2022年5月10日付産経新聞【主張】を転載しています